制作会社と秘密保持契約(NDA)を結ぶとき|確かめる条項
発表前の新しい商品のサイト、まだ社外に話していない新しい事業のロゴ、取引先の名前が並ぶ事例のページ。こうした制作を頼むときは、打ち合わせの段階から、外に出ると困る情報を制作会社に渡すことになります。そこで出てくるのが、秘密保持契約(NDA、機密保持契約とも呼びます)を結ぶかどうかです。
この記事では、制作を頼むときに NDA が要る場面、制作の契約書の秘密保持の条項との違い、確かめる条項の一覧、雛形の探し方、資料の渡し方を説明します。先に答えを言うと、本契約の前に秘密の情報を渡すなら、渡す前に NDA を結ぶのが基本で、条項では「何が秘密か」「誰まで見せてよいか」「実績としていつ公開してよいか」の3つが特に大事です。
NDA が要る場面、要らない場面
| 場面 | NDA の要否の目安 | 理由 |
|---|---|---|
| 会社の情報をそのまま載せるサイトの制作 | 本契約の条項で足りることが多い | 渡す情報の多くが、もともと公開する情報 |
| 発表前の商品や事業のサイト・ロゴ | 見積もりの前に結ぶ | 見積もりのために中身を話す必要がある |
| 取引先の名前、売上、顧客の情報を見せる | 結ぶ | 取引先との約束や、個人情報の扱いが絡む |
| 相見積もりで複数の会社に話す | 各社と結ぶか、話す範囲を絞る | 選ばなかった会社にも情報が残る |
| 提案の依頼書(RFP)で事業の計画を伝える | 結ぶか、伏せた形で書く | 計画そのものが秘密のことがある |
要るかどうかの分かれ目は、本契約を結ぶ前に、秘密にしたい情報を渡すかどうかです。制作の契約書には秘密保持の条項が入っていることが多いのですが、見積もりや提案の段階ではまだ契約が無いので、その条項は使えません。
相見積もりの段階では、各社と NDA を結ぶ手間も考え、最初は伏せた形で条件を伝え、絞り込んだ会社にだけ中身を話すという進め方もあります。相見積もりの進め方はホームページの相見積もりの取り方、提案の依頼書の書き方はホームページ制作の提案依頼書(RFP)の書き方で説明しています。
「営業秘密」として守られるための管理
NDA とは別に、法律で守られる情報の考え方も知っておきます。不正競争防止法では、営業秘密を、秘密として管理されていて(秘密管理性)、事業に役立つ情報で(有用性)、公然と知られていないもの(非公知性)と定めています(第2条第6項)。この3つがそろっていると、持ち出しや不正な使用に対して、差止めや損害賠償を求められる場合があります。
制作の場面で大事なのは、1つ目の「秘密として管理されている」ことです。経済産業省の説明でも、相手から見て秘密だと分かる管理がされているかが問われます。
- 資料や画面に「社外秘」「取扱注意」と表示する
- 渡す相手と、見てよい人を決める
- NDA で、どの情報が秘密かを特定する
何の表示も無く、誰にでも渡していた情報は、後で「秘密だった」と言っても認められにくくなります。NDA を結ぶことは、この管理の一部でもあります。
一方向か、双方向か
NDA には、片方だけが秘密を守る義務を負う形(一方向)と、双方が負う形(双方向)があります。制作を頼む場面では、秘密の情報を渡すのは主に発注する側なので、一方向の形でも足ります。ただし、制作会社の側も、提案の中身や見積もりの単価などを秘密にしたいことがあるので、双方向の形を求められることもよくあります。双方向でも、発注する側に不利になるわけではありません。
確かめる条項の一覧
| 条項 | 確かめること | 制作ならではの点 |
|---|---|---|
| 目的 | 何のために情報を渡すか | 「制作の見積もりと検討のため」「制作のため」と書く |
| 秘密の情報の範囲 | 何が秘密か | 書面に表示したものに限るか、口頭で伝えたものも含むか |
| 除外 | 秘密に当たらないもの | すでに公開されているもの、相手がもともと持っていたものなど |
| 目的の外での使用の禁止 | 他の用途に使わない | 他社の提案や営業の資料に流用しない |
| 開示してよい相手 | 誰まで見せてよいか | 外注のデザイナー、撮影、印刷の会社に見せる場合の条件 |
| 複製 | コピーしてよい範囲 | 制作に必要な範囲に限る |
| 返却・廃棄 | 終わったときの扱い | 検討が終わったとき、契約に至らなかったときのデータの消去 |
| 期間 | いつまで守るか | 契約が終わった後も一定の期間は続くか |
| 実績としての公開 | 制作物を実績に載せてよいか | 公開の日まで載せない、社名を出さないなどの決め方 |
| 個人情報 | 顧客の情報を渡す場合 | 渡す範囲を絞り、扱い方を決める |
| 違反したとき | 損害の賠償 | 差止めや損害賠償の取り決め |
| 裁判所 | もめたときの裁判所 | 自社に近い裁判所にできるか |
特に見落としやすいのが、開示してよい相手と実績としての公開です。制作会社は、デザインや撮影、システムの一部を外の協力者に頼むことがあります。誰に、どの情報を見せてよいか、その相手にも同じ秘密の義務を負わせるかを決めておきます。
実績の公開は、制作会社にとって大事な営業の材料です。発表前の商品であれば、発表の日までは載せない、社名は伏せる、といった決め方で、双方の事情を両立できます。
個人情報を渡すときに加えて考えること
顧客の名簿や、問い合わせの記録を移すために、個人情報を制作会社に渡すことがあります。個人情報の保護に関する法律では、個人データの取り扱いを外に任せる場合、任せた側に、任せた先を必要で適切に監督する義務があります(第25条)。個人情報保護委員会のガイドラインでは、委託先を選ぶこと、取り扱いの契約を結ぶこと、取り扱いの状況を把握することが挙げられています。
- 渡すのは制作に必要な範囲に絞る(試しの表示なら、架空の名前に置き換える)
- 取り扱いの場所、使ってよい人、終わったときの消去を決める
- 再委託をするなら、事前に知らせてもらう
雛形の探し方と使い方
雛形を一から作る必要はありません。経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」(令和6年2月の改訂版)の参考資料には、秘密保持契約書の例が載っています。業務の提携を検討するときの例もあり、制作の見積もりの段階で使う形に近いものです。
雛形を使うときは、次のことを足します。
- 目的を、制作の内容に合わせて具体的に書く
- 外注の協力者に見せる場合の条件を足す
- 実績としての公開の扱いを足す
- 本契約を結んだ後は、本契約の秘密保持の条項とどちらを優先するかを決める
制作会社から雛形が出てくることもよくあります。その場合も、上の表の項目に沿って読み、足りない所を相談します。取引の規模が大きいときや、条項の意味に迷うときは、弁護士に見てもらいます。本契約の書面で確かめることはホームページ制作の契約書で確かめることで説明しています。
資料の渡し方
NDA を結んでも、渡し方が雑だと漏れる原因になります。
- 共有のフォルダは、見てよい人だけに権限を付け、期限を決める
- 「誰でもリンクを知っていれば見られる」設定は避ける
- ファイル名や資料の表紙に「社外秘」と表示する
- 検討が終わったら、共有を止め、相手に消去を頼む
契約の前に確かめることは、ホームページ制作を頼む前に確かめる10項目にもまとめています。
Lapisデザインラボへのご相談はお問い合わせから受け付けています。秘密にしたい情報は、扱いを決めるまでは送らず、概要だけお知らせください。
よくある質問
ホームページの制作を頼むとき、NDA は必ず結ぶものですか。
必ずではありません。会社の情報をそのまま載せるだけのサイトなら、制作の契約書の秘密保持の条項で足りることが多くあります。発表前の商品や事業、取引先の名前、売上の数字など、外に出ると困る情報を見積もりの段階から渡す場合は、資料を渡す前に NDA を結んでおきます。
デザインの NDA の雛形はどこで手に入りますか。
経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」の参考資料に、秘密保持契約書の例が載っています。そのまま使うのではなく、制作の目的、外注先への開示、実績としての公開、公開した後の扱いなど、制作ならではの点を足して使います。取引の規模が大きいときは、弁護士に見てもらいます。
制作会社から「実績として載せたい」と言われたら、NDA と矛盾しませんか。
NDA や契約書で、実績として公開してよいか、いつから、どこまで(社名、画面、説明の文章)を決めておけば矛盾しません。発表前の商品なら「公開の日までは載せない」「社名は出さない」といった決め方ができます。決めないままにすると食い違いのもとになるので、署名の前に話しておきます。