ブランドコンセプトの作り方|小さな会社が言葉にする手順
ロゴや名刺、ホームページを作る前に「まずブランドコンセプトを決めましょう」と言われることがあります。けれども、いざ考え始めると、立派な言葉を並べただけの文になったり、どの会社にも当てはまる文になったりして、手が止まりがちです。
ブランドコンセプトは、飾った言葉ではなく、誰に、何を約束し、どんな態度で接する会社かを、社内の人が同じように説明できる文のことです。ここが決まると、ロゴの案を選ぶとき、色や写真を決めるとき、ホームページの文章を書くときに、迷ったら戻れる場所ができます。
この記事では、小さな会社やお店がブランドコンセプトを言葉にする手順を、入れる要素、材料の集め方、仮の店での例、弱いコンセプトの見分け方の順に説明し、最後にロゴや販促物のデザインへどう反映させるかをまとめます。ブランディング全体の順番は中小企業のブランディングの進め方で扱っているので、ここではその最初の段階、考え方を文にする部分を詳しく見ていきます。
ブランドコンセプトとは:理念やキャッチコピーとの違い
似た言葉がいくつかあるので、まず役割を分けておきます。
| 言葉 | 役割 | 主に読む人 | 長さの目安 |
|---|---|---|---|
| 経営理念 | 会社が何のためにあるか。事業の根っこ | 社員・取引先 | 1〜3文 |
| ブランドコンセプト | 誰に、何を約束し、どんな態度で接するか | 社内・制作を頼む相手 | 1文の版と200字ほどの版 |
| キャッチコピー | コンセプトをお客様向けに短く言い表した一言 | お客様 | 15〜25字程度 |
経営理念はすでにある会社も多いと思います。ブランドコンセプトは、その理念をお客様との接し方の言葉に下ろしたもの、と考えると分かりやすくなります。キャッチコピーは、コンセプトが決まってから作るものです。作り方は会社のキャッチコピーの作り方で説明しています。
コンセプトに入れる5つの要素
ブランドコンセプトは、次の5つの要素を埋めると形になります。
| 要素 | 問い | 書き方のこつ |
|---|---|---|
| 相手 | 誰のための会社・店か | 年齢や業種だけでなく、困っている場面まで書く |
| 約束 | その人に何を約束するか | できることの範囲で、具体的に |
| 根拠 | なぜ自社はそれを約束できるのか | 経験、設備、やり方など事実で書く |
| 人柄 | どんな態度・雰囲気で接するか | 形容詞を3つまで。「〜だが、〜ではない」で補う |
| しないこと | 何をしない会社か | 断ってきた仕事、やらないと決めていること |
見落とされやすいのが「人柄」と「しないこと」です。人柄は、あとでロゴや色、写真を選ぶときの手がかりになります。しないことは、約束をはっきりさせ、ほかの会社との違いを浮かび上がらせます。
作り方の手順
1. 材料を集める
いきなり文を考えず、まず材料を書き出します。経営者だけでなく、お客様と接している社員にも聞きます。
- お客様に言われてうれしかった言葉、よく言われる言葉
- ほかではなく自社を選んだ理由(聞けるなら、実際のお客様に聞く)
- 断った仕事、やめた商品と、その理由
- 仕事で譲れないこと、手間をかけていること
- 創業のきっかけ、今のやり方になった経緯
集めた言葉は、言い回しを整えずにそのまま付せんやメモに残します。お客様が使った言葉は、あとで文章を書くときにそのまま使えることがよくあります。
2. 相手を一人に絞る
「すべてのお客様」に向けた約束は、誰にも響きません。いちばん大切にしたいお客様を一人思い浮かべ、その人がどんな場面で困って自社を探すのかを書きます。ほかのお客様を断るという意味ではなく、迷ったときに誰を基準にするかを決める作業です。
3. 約束と根拠を対にする
材料の中から、その相手に約束できることを選び、根拠と対にします。根拠の無い約束は、言葉だけが浮いてしまいます。
- 約束:「必要な工事だけを提案する」/根拠:「工事の前に必ず傷みの原因を調べ、写真で説明している」
- 約束:「朝早くても焼きたてを渡す」/根拠:「6時から店を開け、焼く量を時間ごとに分けている」
4. 人柄を3つの言葉で決める
どんな態度で接するかを、形容詞3つまでで決めます。言葉だけだと幅が広すぎるので、「〜だが、〜ではない」で補います。
- 「丁寧だが、堅苦しくはない」
- 「職人らしいが、気難しくはない」
- 「落ち着いているが、古くさくはない」
5. 1文の版と200字の版にまとめる
最後に、要素をつなげて2つの長さにまとめます。
- 1文の版:「私たちは、〇〇な人に、〇〇を約束する〇〇です」の形
- 200字ほどの版:相手・約束・根拠・人柄・しないことを、つながった文章にしたもの
1文の版は社内で口にするため、200字の版は制作を頼む相手や新しく入った社員に渡すためのものです。
ブランドコンセプトの例
ここでは、仮の店や会社を置いて例を作ります。どれも説明のための架空の例です。自社の材料に置き換えて読んでください。
たとえば、住宅街で朝から開いている小さなパン屋のような店では
- 1文の版:私たちは、朝の時間が足りない近所の家族に、焼きたてのパンを毎朝手渡す店です
- 人柄:気さくだが、なれなれしくはない
- しないこと:遠くから人を呼ぶための限定品の行列は作らない
たとえば、地域で給排水の工事を請け負う設備会社のようなところでは
- 1文の版:私たちは、水回りの不具合に困った家の方に、原因から直す工事を約束する会社です
- 人柄:几帳面だが、説明は専門用語を使わない
- しないこと:原因が分からないまま表面だけを直す工事は引き受けない
たとえば、創業間もない会社を主に受け持つ税理士事務所のようなところでは
- 1文の版:私たちは、初めて会社を経営する人に、数字の意味が分かるまで説明する事務所です
- 人柄:落ち着いているが、相談しにくい雰囲気はつくらない
- しないこと:書類を預かるだけで、説明を省くことはしない
どの例も、店や会社の名前を別の名前に差し替えると、通じにくくなるところまで具体的にしています。これが、コンセプトが「その会社のもの」になっているかの目安です。
弱いコンセプトの見分け方
書き上げたら、次の表で点検します。
| 弱いコンセプトの特徴 | 例 | 直し方 |
|---|---|---|
| どの会社にも当てはまる | 「お客様第一」「信頼と安心」 | 相手と場面を具体的に書く |
| 約束に根拠が無い | 「最高の品質」 | 根拠になる事実を対にする |
| 人柄が見えない | 形容詞が無い、または10個並んでいる | 3つまでに絞り、「〜だが〜ではない」で補う |
| 守れない | 「いつでもすぐ伺います」(人手が足りない) | 実際にできる範囲に直す |
| 社員が説明できない | 経営者だけが分かる言葉 | 社員に読んでもらい、言い換えを聞く |
とくに大切なのが最後の点です。ブランドコンセプトは、社員が自分の言葉で言い直せて初めて、名刺の渡し方や電話の受け答え、資料の作り方に表れます。
デザインへの反映のしかた
決めたコンセプトは、ロゴや販促物を作るときの物差しになります。次の表のように、要素ごとにデザインの何に効くかを対応させておくと、案を選ぶときに好みの話になりにくくなります。
| コンセプトの要素 | 反映させるところ | 置き換えの例(人柄が「几帳面で落ち着いた」の場合) |
|---|---|---|
| 人柄 | ロゴの形、線の太さ | 線の太さがそろった、角の整った形 |
| 人柄 | 色 | 彩度を抑えた紺やグレーを主に、差し色は1色 |
| 人柄 | 書体 | 癖の少ない書体。見出しと本文で2種類まで |
| 相手 | 写真の選び方 | お客様と同じ年代の人や、実際の作業の場面 |
| 約束・根拠 | ホームページや会社案内の見出し | 約束を見出しに、根拠を本文に |
| 人柄 | 文章の言葉づかい | 敬体で、専門用語は言い換える |
| しないこと | 載せない言葉・写真 | 誇張した言葉、イメージだけの素材写真を使わない |
色の決め方はコーポレートカラーの決め方で、ロゴを頼むときの伝え方はロゴを依頼する前に決めることで説明しています。制作を外に頼むときは、200字の版を最初の打ち合わせで渡すと、相手が形にするための材料になります。
決めたコンセプトと、それを形にした色や書体の決まりは、あとで社内や外部の業者が使えるよう一冊にまとめておくと、作る人が変わっても見た目がそろいます。まとめ方はブランドガイドラインとはを参考にしてください。
社内で決めるときの進め方
小さな会社なら、次のような進め方が現実的です。
- 材料集め(1〜2週間):経営者と社員がそれぞれメモを書く。お客様に聞ける機会があれば聞く
- 話し合い(2時間ほどを1〜2回):材料を並べ、5つの要素を埋める。決める人を最初に決めておく
- 文にまとめる(数日):担当者が1文の版と200字の版を書く
- 寝かせて読み直す(1週間ほど):社員に読んでもらい、言い直してもらう。通じなかったところを直す
時間をかけすぎると、作る前に熱が冷めます。完璧な文を目指すより、使いながら直すつもりで、期限を決めて仕上げます。
広告の表示で気をつけること
コンセプトの「約束」や「根拠」は、そのままホームページやチラシの言葉になります。商品やサービスの広告は、景品表示法の「表示」にあたります。消費者庁の Q&A では、チラシ、パンフレット、ポスター、看板、インターネットによるものなどが表示の例として挙げられています。
景品表示法は、品質などの内容を実際のものより著しく優良であると示す表示(優良誤認)を禁じています。消費者庁は、表示の裏付けとなる合理的な根拠を示す資料の提出を求めることができ、提出しなければ不当な表示とみなされる仕組みもあります。コンセプトを広告に使うときは、次の点を確かめます。
- 約束していることを、実際に続けられるか
- 根拠として書いた事実(年数、やり方、材料など)を、資料で示せるか
- 「一番」「最高」など比べる言葉を使うなら、何と比べたのかを示せるか
根拠と対にして作ったコンセプトなら、この点でも困りにくくなります。
ブランドコンセプトを作るときのチェックリスト
- お客様に言われた言葉と、選ばれた理由を集めた
- 相手を一人に絞り、困っている場面まで書いた
- 約束と根拠を対にした
- 人柄を3つまでの言葉と「〜だが〜ではない」で決めた
- しないことを書いた
- 1文の版と200字ほどの版を作った
- 社員が自分の言葉で言い直せるかを確かめた
- 色・書体・写真・文章への置き換えを表にした
Lapisデザインラボでは、ヒアリングと調査で考え方を言葉にしてから、ロゴや販促物の形にしています。プランごとの内容はサービスと料金に載せています。
よくある質問
ブランドコンセプトとキャッチコピーは、何が違いますか。
ブランドコンセプトは、誰に、何を約束し、どんな態度で接する会社かを社内で共有するための文で、200字ほどの長さになることもあります。キャッチコピーは、そのコンセプトをお客様に向けて短く言い表した一言です。先にコンセプトを決めておくと、キャッチコピーやロゴの案を選ぶときの物差しになります。
ブランドコンセプトは、社内だけで作れますか。
作れます。お客様に言われた言葉、選ばれた理由、断ってきた仕事を書き出し、経営者と主な社員で話し合えば、小さな会社でも形にできます。外に頼む場合も、社内で材料を集めておくと話が早く進み、できた言葉を自分たちのものとして使い続けやすくなります。
ブランドコンセプトは、ロゴのデザインにどう反映させればよいですか。
コンセプトの中の「人柄」を表す言葉を、形・色・書体・写真の選び方に置き換えます。たとえば「几帳面で落ち着いた」なら、線の太さがそろった形、彩度を抑えた色、癖の少ない書体、整理された写真、という具合です。案を見るときは、好みではなく、この置き換えに合っているかで選びます。