ブランディングの契約で確かめること|作る範囲・権利・追加の費用
ブランディングを外部の会社に頼むとき、見積書の金額には目が行っても、契約書の中身までは読み込まずに判を押してしまうことがあります。ところが、あとで行き違いになりやすいのは、金額そのものだけでなく「どこまでが今回の仕事か」「できたものを自由に使えるか」「追加の費用がいつかかるか」の3点です。
この記事では、ブランディング会社と契約する前に確かめることを、作る範囲・権利・追加の費用・支払いとやめるときの扱いの4つに分けて整理します。依頼先の選び方はブランディング会社の選び方、費用の相場はブランディングを外注したときの費用相場で説明しているので、ここでは契約書と見積書を前にしたときの確かめ方に絞ります。法律の判断が要る場面では、弁護士などの専門家に相談してください。
契約の前に書面をそろえる
ブランディングの取り決めは、1枚の契約書だけで決まるとは限りません。次のような書面が組み合わさっている場合があるので、まず手元にそろえて並べます。
| 書面 | 主に書かれること | 確かめる点 |
|---|---|---|
| 提案書 | 進め方、考え方、スケジュール | 提案の中身が見積書と契約書に入っているか |
| 見積書 | 作業と成果物ごとの金額 | 「一式」の一言で済ませていないか |
| 契約書(業務委託契約書) | 範囲、権利、支払い、解除 | 見積書と食い違っていないか |
| 発注書・注文請書 | 発注した日、金額、納期 | 契約書と同じ内容か |
| 取引条件・利用規約 | 修正の回数、キャンセル | 契約書より不利な条項が混ざっていないか |
提案書に「社内向けの説明会も行います」と書かれていても、見積書と契約書に無ければ、約束として扱われないことがあります。提案のときに聞いて気に入った作業は、契約の範囲に入っているかを1つずつ照らし合わせてください。
1. 作る範囲:成果物を一覧にしてもらう
最初に確かめるのは、何が納品されるかです。「ブランディング一式」「VI開発」のような書き方では、ロゴだけなのか、名刺や封筒まで入るのか、使い方の決まり(ガイドライン)まで作るのかが分かりません。契約の前に、成果物を次のような表にしてもらうと抜けが見つかります。
| 区分 | 成果物の例 | 確かめること |
|---|---|---|
| 考え方 | ヒアリングの記録、コンセプトの文書 | 文書として納品されるか、打ち合わせの中だけか |
| ロゴ | 提案する案、決定したロゴ、色違い・縦横の組み方 | 案の数、組み方の種類 |
| 色・書体 | 色の指定、使う書体 | 書体のライセンスはどちらが買うか |
| 使い方の決まり | ガイドライン | ページ数、社内で配れる形か |
| 印刷物 | 名刺・封筒・パンフレット | 印刷代を含むか、デザインだけか |
| ウェブ | サイト・ページのデザイン | 公開の作業まで含むか |
印刷物は「デザイン料」と「印刷代」が分かれている場合があり、印刷代は別の請求になることがあります。書体も、会社が使い続けるならライセンスの持ち主が誰になるかが大事です(フォントのライセンスで注意すること)。
作業の側も確かめます。調査やワークショップ(社内の人を集めて話し合う会)が何回・何人分なのか、打ち合わせは何回までなのか、出張の交通費は誰が持つのかを書いておくと、回数が増えたときにもめません。
2. 権利:著作権の譲渡と納品データ
著作権を「譲渡する」と書いてあるか
ロゴやデザインの著作権は、何も決めなければ作った側(制作会社やデザイナー)に残るのが原則です。代金を払ったからといって、自動で依頼した側のものになるわけではありません。会社の印として長く使うなら、契約書に「著作権を譲渡する」とはっきり書いてもらいます。
そのとき、第27条と第28条の権利まで含むかを確かめます。著作権法第61条第2項は、譲渡の契約で第27条(翻案などの権利)と第28条(二次的著作物の利用の権利)が譲渡の目的として特に書かれていない(特掲されていない)ときは、これらの権利は譲渡した側に残ったものと推定する、と定めています。ロゴを作り替えたり、ロゴから別の図柄を起こしたりするのは、この2つの権利に関わる場面です。「すべての著作権を譲渡する」だけでなく、「第27条及び第28条の権利を含む」と書いてあるかを見てください。
著作者人格権を行使しない取り決め
著作者人格権は、著作権法第59条で譲渡できないとされている権利です。その中の同一性保持権(第20条)は、作品を意に反して変えられない権利です。会社がロゴの色を変えたり、文字を組み直したりするたびに作った側の了解が要るのでは困るため、契約では「著作者人格権を行使しない」と取り決めておく方法があります。
納品データの形式と、採用しなかった案
権利を譲り受けても、データが手元に無ければ、あとで別の会社に頼むときに困ります。ロゴなら、拡大しても荒れない形式(AI・SVGなど)と、すぐ使える画像の形式(PNGなど)、カラーと白黒の両方を受け取ると書いておきます。形式の違いはロゴのデータ形式で説明しています。
採用しなかった案の扱いも確かめます。採用しなかった案は、譲渡の定めが無ければ制作側に権利が残り、ほかの仕事で使われることもあるため、気になる場合は契約の前に話しておきます。権利の考え方はロゴの著作権は誰のものかにまとめています。
商標の調べと出願は誰がするか
ロゴや名前を商標として登録するかどうかは、デザインの契約とは別の話です。制作会社が似た商標がないかを簡単に調べるところまでなのか、弁理士による出願の手配まで含むのかを確かめます。出願には特許庁に納める料金がかかります(ロゴの商標登録は必要か)。
3. 追加の費用:どこからが「追加」かを決める
追加の費用になりやすいのは、次の4つです。
| 追加になりやすいこと | 契約で決めておくこと |
|---|---|
| 修正の回数を超えた | 何回まで含むか、1回の数え方、超えたときの単価 |
| 方向を大きく変えた | 「修正」と「作り直し」の境目 |
| 成果物を足した | 追加の印刷物・ページの単価、見積もりの出し方 |
| 打ち合わせや出張が増えた | 回数の上限、交通費の扱い |
とくに「修正」と「作り直し」の境目はあいまいになりがちです。たとえば、ロゴの色や線の太さを整えるのは修正、決めたコンセプトを変えて別の案を起こすのは作り直し、といった線を、契約の前に担当者と話しておきます。途中から加わった役員の意見で方向が変わることもあるので、決める人をはじめから打ち合わせに入れておくと防げます。
追加が出そうになったら、制作側が先に見積もりを出し、こちらが了承してから作業する、という順番を契約に書いておくと、請求のときに驚くことがなくなります。
4. 支払いと、途中でやめるときの扱い
支払いは、契約時に一部、納品時に残り、という分け方や、段階ごとに分ける形があります。確かめるのは次の点です。
- 何をもって「納品」とするか(データを渡した日か、こちらが確認した日か)
- 着手したあとに中止した場合、支払った分は戻るか、作業した分だけ払うのか
- 納期が遅れたときの扱い(こちらの返事の遅れで延びた場合を含む)
- 著作権が移るのはいつか(代金を払い終えたときか、納品のときか)
著作権の譲渡を「代金の支払いが済んだとき」とする契約もあります。支払いの前にロゴを看板や印刷物に使い始める予定があるなら、その間の使い方も確かめておきます。
相手が、従業員を使っていない個人のデザイナーや、代表者1人だけで従業員のいない法人の場合は、発注する側にも決まりがあります。2024年11月に施行された特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(いわゆるフリーランス法)は、発注する事業者に、仕事の内容・報酬の額・支払期日などを書面かメールなどで示すことを求めています。従業員を使っている事業者が発注するときは、報酬の支払期日を、成果物を受け取った日から60日以内のできるだけ短い期間で決めることも求められます。
契約書を読むときのチェックリスト
- 成果物が一覧になっていて、「一式」だけで済まされていない
- 提案書で聞いた作業(調査・ワークショップ・ガイドライン)が契約に入っている
- 著作権の譲渡が書かれ、第27条・第28条の権利を含むと明記されている
- 著作者人格権を行使しない取り決めがある
- 納品データの形式(AI・SVG・PNGなど)が書かれている
- 書体・写真素材のライセンスを、どちらが持つかが分かる
- 修正の回数と、超えたときの単価が書かれている
- 追加の作業は、見積もりを了承してから始める決まりがある
- 支払いの時期と、途中でやめたときの精算が書かれている
- 見積書・提案書と契約書の中身が食い違っていない
口頭の約束はメールで残す
打ち合わせで「それも含めておきます」と言われたことは、その日のうちに「本日のお打ち合わせで、〇〇も今回の範囲に含めると伺いました」とメールで送っておきます。相手から了承の返事があれば、それが記録になります。契約書を作り直すほどでない取り決めも、こうして書面に残しておくと、担当者が替わったときにも引き継がれます。
Lapisデザインラボでは、プランごとに含まれる成果物と、修正の回数・著作権の譲渡・支払いの条件をサービスと料金に載せています。
よくある質問
ブランディングで作ったロゴの著作権は、代金を払えば自社のものになりますか。
自動ではなりません。何も決めなければ著作権は作った側に残るのが原則です。契約書に著作権を譲渡すると書いてもらい、著作権法第27条・第28条の権利を含むことと、著作者人格権を行使しないことも明記してもらいます。
修正の回数を超えると、追加の費用はどう決まりますか。
会社ごとに違います。契約の前に、修正は何回まで含むか、1回をどう数えるか、超えたときの単価を確かめます。あわせて「方向を変えて案を作り直す」のは修正ではなく別の見積もりになる場合があるので、その境目も話しておきます。
契約書を作らず、見積書とメールのやり取りだけで頼んでも大丈夫ですか。
小さな仕事ではそうした頼み方もありますが、権利と追加の費用は後で行き違いになりやすいところです。契約書が無い場合でも、成果物の一覧、著作権の扱い、修正の回数、支払いの時期をメールで送り、相手の了承の返事をもらって記録に残します。