日本茶スタンド「朔」のブランドづくり|店名の意味から印と配色まで
この記事で取り上げる日本茶スタンド「朔(さく)」は、実在しない架空の店です。Lapisデザインラボが、小さな店のブランドを一式で作る流れを示すために、京都の日本茶スタンドを想定して自主制作しました。できあがったロゴ・名刺・ウェブページと、決めた色と書体の一覧は制作事例「朔」の詳細ページに載せています。
ここでは、その一覧を繰り返すのではなく、なぜそう決めたのか、同じ判断を自分の店でするときに何を考えればよいのかを、順を追って説明します。カフェや日本茶の店、小さな飲食店を開こうとしている方が、自分の店に置き換えて読めるように書いています。
想定した店と、最初に言葉にしたこと
想定したのは、朝の通勤の時間帯に立ち寄る、小さな日本茶のスタンドです。席は少なく、持ち帰りが中心。来てほしいのは、急いでいる朝でも、一杯のお茶で少し気持ちを落ち着けたい人です。
デザインに入る前に、次のことを言葉にしました。
- 誰に来てほしいか:朝の通勤の途中の人
- どんな時間を過ごしてほしいか:短くても、静かに整う時間
- 店の雰囲気を3つの言葉で:静か、澄んだ、始まり
- 近くの店との違い:にぎやかなカフェではなく、落ち着いた一杯
この言葉が、あとで印や色を選ぶときの物差しになります。見た目の案を比べて迷ったときは、「これは静かか」「朝の始まりの気持ちに合うか」と問い直しました。
課題:日本茶の店は見た目が似やすい
日本茶の店のロゴを考えるとき、多くの人がまず思い浮かべるのは、急須、茶葉、湯のみ、和柄といった記号です。こうした記号は、何の店かをすぐに伝えられる一方、同じ業種の店の多くが使っているため、並べるとどの店も似た見た目になります。
小さな店は、看板の大きさも、宣伝にかけられる費用も限られています。だからこそ、一度見たら覚えてもらえる、その店だけの手がかりが必要です。そこで、業種の記号を使わずに印を作ることを最初の方針にしました。
店名の意味から印を起こす
「朔」は、新月、つまり月の満ち欠けの始まりを指す言葉です。この意味を、朝に一日を始める店の姿勢に重ね、茶葉や急須ではなく、月の形から印を起こしました。
店名の意味から印を起こすと、次の良さがあります。
- 店名を知らない人にも、形として記憶に残る
- 店名を知っている人には、意味が通じる
- 業種の記号に頼らないので、ほかの店と重なりにくい
- 将来、扱う商品が増えても、印が古くならない
何の店かは、看板の「日本茶」の文字、メニュー、写真で十分に伝えられます。ロゴにすべてを背負わせる必要はありません。
自分の店で考えるときの問い
- 店名には、どんな意味や由来があるか
- その意味は、店で過ごしてほしい時間と重なるか
- 業種の記号を使わずに、店を表す形はあるか
色の数を絞る
色は、落ち着いた地の色と文字の色の二色で組み、強調の色を一つだけ、ごく小さな面に使いました。写真が入るまでの面には、地の色に近い淡い緑を補っています。色の値は詳細ページに載せています。
色の数を絞ったのは、「静か」という言葉を見た目で守るためです。色が多いと、にぎやかで楽しい印象になりますが、朝の落ち着いた一杯という店の姿とはずれます。強調の色を一点だけにすると、そこに目が集まり、全体の静けさは崩れません。
小さな店では、色の数が少ないほど、印刷の費用も抑えやすく、看板、カップ、シール、名刺で色を揃えやすくなります。
自分の店で考えるときの問い
- 店の雰囲気の言葉は、にぎやかか、静かか
- 主な色を2つまでに絞れるか
- 強調の色を、どこに、どれだけ使うか
書体を使い分ける
見出しには和の気配を残す明朝体を、本文には読みやすいゴシック体を使いました。すべてを明朝体にすると、雰囲気は出ますが、価格やお知らせ、営業時間のような情報が読みにくくなります。見出しだけに雰囲気を任せ、情報は読みやすさを優先する、という分け方です。
飲食店では、メニューの価格や営業時間を、急いでいるお客様が一目で読めることが大切です。雰囲気と読みやすさのどちらかを捨てるのではなく、使う場所で分けると両立できます。書体の使用の条件はフォントのライセンスで注意することで説明しています。
並べて確かめる
印、色、書体を決めたら、ロゴを単体で眺めるのではなく、名刺の表と裏、ウェブページのトップに載せた状態を1枚に並べて確かめました。実際のお店では、ここに持ち帰りのカップやシールも並べます。
ロゴは、単体で見ると美しくても、実際に使うものに載せると、小さすぎて形がつぶれる、ほかの要素とぶつかる、ということがよくあります。特に持ち帰りが中心の店では、カップやシールのように、指先ほどの大きさでロゴを使う場面が多くなります。並べて確かめることで、こうしたずれを、印刷や看板の製作の前に見つけられます。
判断の分かれ目
この例では一つの道を選びましたが、店によっては別の道が合うこともあります。主な分かれ目を表にまとめます。
| 分かれ目 | この例で選んだ道 | 別の道が合う店 |
|---|---|---|
| 印の元にするもの | 店名の意味 | 店名が人の名前や地名で、意味から形を起こしにくい店は、頭文字や建物の形から |
| 業種の記号を使うか | 使わない | 何の店か分かりにくい場所にある店、観光のお客様が多い店は、記号を小さく添える |
| 色の数 | 二色と一点の強調 | にぎやかさや楽しさを伝えたい店は、色を増やす |
| 書体 | 見出しは明朝、本文はゴシック | 若い人向けの軽い雰囲気の店は、見出しも丸みのあるゴシックに |
どの道が正しいということはありません。最初に決めた言葉(誰に、どんな時間を)に照らして、合う方を選びます。
よくあるつまずき
- 印を単体で選んでしまう:候補を画面いっぱいに並べて比べると、細かな飾りのある案が良く見えがちです。実際に使う大きさで比べると、印象が逆転することがあります
- 周りの意見を全部取り入れる:家族や知人に意見を聞くのは良いことですが、全員の好みを足すと、特徴の無い印になります。最初に決めた言葉で判断します
- 開店の直前に決める:看板や包装は製作に日数がかかります。印と色は、内装の工事が始まる頃までに決めておくと、あとが詰まりません
実際の依頼で加わるもの
この自主制作では、ロゴ、名刺、ウェブページのトップまでを作りました。実際に店を開くときは、ここに看板、のぼり、メニュー表、SNSの画像、持ち帰りの包装などが加わります。どれも、最初に決めた印、色、書体の決まりに沿って作れば、店全体の印象が揃います。
開業前に作るものの順番と、看板やメニューを作るときの注意はカフェ・飲食店のロゴとメニューデザインで、ブランドづくり全体の進め方は中小企業のブランディングの進め方で説明しています。
小さな店のブランドづくりで大切なこと
この例から、小さな店のブランドづくりで大切なことをまとめると、次の3つです。
- 言葉を先に決める:誰に、どんな時間を過ごしてほしいかを、見た目の前に言葉にする
- その店だけの手がかりを探す:業種の記号より、店名の意味や、店の成り立ちから考える
- 使うものに並べて確かめる:ロゴを単体で決めず、名刺、看板、カップ、ウェブページに載せた姿で判断する
できあがったロゴ・名刺・ウェブページは、制作事例「朔」の詳細ページで見られます。Lapisデザインラボのブランドづくりのプランの内容と料金はサービスと料金に、ほかの制作事例は制作事例に載せています。
よくある質問
カフェのロゴに、コーヒーカップや茶葉の絵を入れた方がよいですか。
入れると何の店かは伝わりやすくなりますが、同じ業種の店の多くが同じ記号を使うため、ほかの店と見分けにくくなります。この記事の例では、茶葉や急須を描かず、店名の意味から印を起こしました。何の店かは、看板の文字やメニュー、写真で伝えられます。ロゴには、その店だけが持つ手がかりを入れる方が、覚えてもらいやすくなります。
小さな店のブランドづくりは、何から作ればよいですか。
店名の意味と、どんな時間を過ごしてほしい店かを言葉にするところから始めます。そのうえで、印(ロゴ)、色、書体を決め、名刺、看板、カップ、ウェブページなど開店に要るものへ展開します。印を単体で決めるのではなく、実際に使うものに並べた状態で確かめるのが大切です。
この「朔」は実在する店ですか。
実在しません。Lapisデザインラボが、ブランドづくりの進め方を示すために作った架空の日本茶スタンドです。実在する店や会社とは関係がありません。