工務店「キネ」のブランドづくり|地元の木を伝える色と印
この記事で取り上げる工務店「キネ」は、実在しない架空の会社です。Lapisデザインラボが、工務店のブランドを作る流れを示すために、地元の木で家を建てる工務店を想定して自主制作しました。できあがったロゴ・名刺・ウェブページと、決めた色と書体の一覧は制作事例「キネ」の詳細ページに載せています。
ここでは、その一覧を繰り返すのではなく、なぜそう決めたのか、同じ判断を自分の会社でするときに何を考えればよいのかを説明します。工務店や住宅会社、リフォーム会社の経営者が、自社に置き換えて読めるように書いています。
想定した会社と、最初に言葉にしたこと
想定したのは、地域の山で育った木を使って家を建てる、小さな工務店です。職人を抱え、設計から施工、住んでからの手入れまでを自社で引き受ける会社、という設定にしました。
デザインに入る前に、次のことを言葉にしました。
- 主なお客様:地元で家を建てたい、または建て替えたい家族
- お客様にとって何をする会社か:地元の木で、長く住める家を建て、住んでからも手入れを続ける
- 会社の雰囲気を3つの言葉で:頼もしい、素朴、長く続く
- ほかの会社との違い:地元の木を使うこと、職人が自社にいること
課題1:写真が揃う前の画面
工務店のホームページは、施工事例の写真が主役になります。お客様は、その会社が建てた家を見て、自分の家を想像します。ところが、開業したばかりの工務店や、これまで写真をきちんと撮ってこなかった会社では、見せられる写真が少ないことがよくあります。
写真が主役の構成のまま写真が少ないと、画面が寂しく、会社の力が伝わりません。そこで、写真が揃う前でも画面が成り立つ見た目を作ることを、最初の課題にしました。
課題2:どの工務店も使う言葉
工務店のホームページや広告には、「自然素材」「あたたかい家」「家族の笑顔」といった言葉がよく並びます。どれも大切な価値ですが、どの工務店も使っているため、言葉だけでは差がつきません。見た目も同じで、緑色と木の絵を使えば「自然」は伝わりますが、多くの会社が同じ手を使っています。
言葉で差がつきにくいなら、見た目で、その会社だけの具体的な手がかりを示す必要があります。
家の形の中に若葉を置く
印は、切妻屋根の家の輪郭の中に、若葉を一枚置いた形にしました。木を使う会社であることと、家を建てる会社であることを、一つの印で同時に示すためです。
家の形も、葉の形も、それだけなら多くの工務店が使っています。二つを重ね、輪郭を単純にすることで、ほかの会社と重なりにくく、どんな大きさでも形が保つ印にしました。工務店のロゴは、現場の幕や車に大きく出すことも、名刺に小さく入れることもあるので、細かな飾りを入れないことが大切です。
自分の会社で考えるときの問い
- 自社の仕事を表す形は何か(家、木、道具、屋号)
- その形に、自社だけの要素を一つ重ねられるか
- 現場の幕から名刺まで、どの大きさでも形が保つか
実際の材料から色を取る
緑で「自然」を表すのはよくある手なので、この例では、実際に家に使われる材料の色から色を取りました。杉の皮のような赤茶と、漆喰のような白を基調にし、名刺の表と文字には墨、写真が入るまでの面には檜のような淡い木の色を使いました。色の値は詳細ページに載せています。
材料の色を使うと、次の良さがあります。
- 家に使う木や壁の色と、会社の色が自然につながる
- 施工事例の写真が入ったときに、写真の色とぶつからない
- 「自然素材」と言葉で言わなくても、材料へのこだわりが伝わる
自分の会社で考えるときの問い
- 自社がよく使う材料は何か。その色は
- その色は、施工事例の写真と並べたときに合うか
現場の頼もしさを伝える書体
社名と見出しには、最も太いゴシック体を使いました。細い明朝体は、上品で繊細な印象になりますが、現場で家を建てる職人の頼もしさは伝わりにくくなります。太いゴシック体は、現場の幕や車に出しても遠くから読め、力強さが伝わります。
写真が無い面を図形で持たせる
ウェブページの最初の画面は、檜のような淡い木の色から濃い茶へ移る面にして、その上に見出しを載せました。ロゴを置く杉皮の色の面には、木目に見立てた縦の細い線を敷いています。写真が揃う前でも画面が成り立つ形です。施工事例の写真が増えてきたら、最初の画面の面を写真に置き換えていく前提です。
写真が少ない段階では、文章で伝えることも大切です。使う木がどこで育ったか、職人が何人いて、どんな手順で家を建てるか、住んでからどんな手入れをするか。写真が無くても、具体的な言葉で会社の姿は伝えられます。施工事例の見せ方は工務店のホームページで説明しています。
名刺とサイトの印象を揃える
工務店では、現場で渡す名刺と、家族がパソコンやスマートフォンで見るサイトとで、印象がずれやすいという課題があります。現場の名刺は実用一辺倒で、サイトは洗練された見た目、ということもよくあります。
この例では、名刺の表を墨の地にして印を置き、裏の名前はサイトの見出しと同じ極太のゴシックで組みました。裏の端の帯と肩書には、サイトの小さな英字の見出しと同じ杉皮の色を使っています。現場で名刺を受け取ったお客様が、あとでサイトを開いたときに、同じ会社だとすぐに分かるようにするためです。
写真を撮りためる仕組み
写真が少ない課題は、見た目の工夫だけでは解決しません。家を一軒建てるたびに、写真を撮りためる仕組みを作ることが、工務店のブランドづくりの土台になります。
- 着工、上棟、完成、引き渡しの各段階で、決まった角度の写真を撮る
- 職人の手元、材料、現場の整った様子も撮る
- 完成の写真は、晴れた日の明るい時間に、家具が入る前と住み始めてからの両方を撮る
- 施主の了解を取り、どの写真をどこに載せてよいかを記録しておく
年に数棟の工務店でも、数年続ければ見せられる写真は確実に増えます。写真が増えたら、図形で持たせていた面を順に写真へ置き換えていきます。撮影の頼み方はプロのカメラマンに撮影を頼むときの準備で説明しています。
判断の分かれ目
| 分かれ目 | この例で選んだ道 | 別の道が合う会社 |
|---|---|---|
| 印の形 | 家の輪郭と若葉を重ねる | 屋号に歴史がある会社は、屋号の文字や家紋を元に |
| 色 | 実際の材料の色 | モダンな家を得意とする会社は、白と黒を基調に |
| 書体 | 極太のゴシック | 高級な注文住宅を得意とする会社は、明朝体で品よく |
| 写真が少ない間 | 図形の背景と文章で持たせる | 写真が十分にある会社は、最初から写真を主役に |
実際の依頼で加わるもの
この自主制作では、ロゴ、名刺、ウェブページの最初の画面(見出しと、施工事例・家づくりの流れ・見学会のご予約への入口)までを作りました。実際の工務店では、ここに現場の幕、車に貼るマグネット、完成見学会のチラシ、会社案内、職人の作業着などが加わります。現場で目にするものほど、地域の人に会社を知ってもらう機会になるので、同じ印と色で揃えます。
看板や現場の幕の考え方は看板デザインを頼むときの流れと費用の目安で、ブランドづくり全体の順番は中小企業のブランディングの進め方で説明しています。
工務店のブランドづくりで大切なこと
- どの会社も使う言葉から離れる:「自然素材」と言う代わりに、使う材料の色や産地を見せる
- 写真が揃う前でも成り立つ形にする:図形と色と文章で、会社の姿を伝える
- 現場と画面の印象を揃える:名刺、幕、車、サイトで同じ印と色を使う
できあがったロゴ・名刺・ウェブページは、制作事例「キネ」の詳細ページで見られます。Lapisデザインラボのブランドづくりのプランの内容と料金はサービスと料金に、ほかの制作事例は制作事例に載せています。
よくある質問
工務店のロゴは、どんな形にすればよいですか。
家の形、木、葉、屋号の頭文字などがよく使われます。家や木の形は仕事の内容が伝わる一方、同じ形を使う会社も多いため、自社ならではの要素を一つ重ねると違いが出ます。この記事の例では、家の輪郭の中に若葉を一枚置き、木を使う会社であることと家を建てる会社であることを、一つの印で示しました。看板に大きく出しても、名刺に小さく入れても形が保つことも大切です。
施工事例の写真が少ないうちは、ホームページをどう作ればよいですか。
写真が主役になる構成のままだと、写真が少ない段階では画面が寂しく見えます。この記事の例では、ウェブページの最初の画面を木の色の面にして見出しを載せ、ロゴを置く面には木目に見立てた線を敷くなど、色と図形で画面が成り立つようにし、施工事例が増えたらその面を写真に置き換える前提で作りました。写真が揃うまでの間は、会社の考え方、使う材料、家づくりの流れを文章で丁寧に伝えます。
この「キネ」は実在する会社ですか。
実在しません。Lapisデザインラボが、工務店のブランドづくりの進め方を示すために作った架空の工務店です。実在する会社や人物とは関係がありません。